童話作家・北村正裕のナンセンスの部屋MENU > 白鳥の湖への旅 >
ルパージュ演出「ニーベルングの指環」映像
（METライブビューイング2010-2012）
2010年から2012年にかけて映画館で映像上映されたロベール・ルパージュ演出によるメトロポリタン・オペラの「ニーベルングの指環」４部作は、奇抜な「読み替え」などは一切行わず、ワーグナーの音楽と物語に非常に忠実な本格的なもので、非常に好感の持てるものでした。
特に感心した点を以下にいくつか書いておきます。
「神々の黄昏」の終盤のクライマックスのジークフリートの葬送行進曲では、剣の主題が現れるところで、グンターが、ジークフリートの剣を高々と掲げるという演出があり、物語を、音楽に忠実に視覚化していました。
ハーゲンが槍でジークフリートの背中を突く直前、ヴォータンの２羽のカラスと思われる映像で表現される鳥が、彼らの背後を飛ぶ演出があり、ラストシーンでのブリュンヒルデの台詞へのつながりが意識されていることがわかります。
ラストシーンでのグラーネは、木馬とは違い、かなり柔軟性があって、首の動きがリアルで、これに乗ったブリュンヒルデが照明による炎の中へ進んで行くという演出で、炎に飛び込むブリュンヒルデとグラーネを本当に視覚化していました。
「ジークフリート」の第２幕で、大蛇の血をなめたジークフリートがミーメの本心を読めるようになったシーンで、ミーメの本音の部分は、ミーメが眼鏡をはずして歌うということで、本音と口実が混じったミーメの台詞がわかりやすくなっていました。
「ワルキューレ」第２幕で、ヴォータンが自らジークムントの剣を砕く場面では、ヴォータンは、ブリュンヒルデを押しのけるようにして登場し、本当に、自らの槍でジークムントの剣を砕くという演出になっていました。その一方で、倒れたジークムントを抱きしめ、ジークムントも、まだ意識のあるわずかな時間で、再会したヴォータンの顔に手を伸ばすというシーンを用意して、ヴォータンの苦悩が強調されていました。
「ワルキューレ」第３幕のワルキューレの騎行では、今回の４部作すべての舞台の基盤とも言える20枚を越える回転する鉄製の板の１枚１枚が、上空でシーソーのようにゆっくりと揺れ、それに乗ったワルキューレたちがほんとうに馬を駆って空を飛ぶ様子を表現していました。
ワルキューレのかぶとは、かぶとというより、王女様の髪飾りという感じで、ブリュンヒルデの純真さを表現するには好都合の衣装だったと思います。
「ラインの黄金」冒頭では、ラインの乙女たちが、宙づりで登場して、ライン河の水の中に見立てられた舞台の中を泳ぐという演出。歌う前に鉄板の舞台装置に着地しますが、冒頭から、台本に忠実な物語の視覚化を宣言する正当派の開幕でした。
指揮者もオーケストラも歌手も好演でしたが、歌手については、強いて、注文をつけるとすれば、ジークムントを歌ったヨナス・カウフマンの声が、時に、低くきこえる曇った感じの声になってしまって、その部分は、あまりきれいにはきこえませんでした。具体的に言うと、たとえば、ジークリンデが狂乱状態に陥って倒れるシーンで彼女に向かって歌う"Schwester!
Geliebte!"（妹よ！愛する人よ！）の部分。また、ブリュンヒルデとのやりとりとの後で眠っているジークリンデに語りかけるシーンでも同様の傾向が出ていたと思います。強い声のシーンはよいのですが、柔らかく歌うところが、このような曇った感じの声になってしまっているように思うのですが、この人気テノール歌手の、このような歌い方は、みなさん、気にならないのでしょうか？好みの問題なのでしょうが、カウフマンは、同じMETライブビューイングの「ファウスト」（グノー作曲）のタイトルロールを歌ったときにも同様の傾向があり、これには、かなり違和感を覚えました。
今回のライブビューイング、僕は、2011-2012シーズンに後半２作を見て、2012年8月の４部作再上映のときに前半２作を見ました。前半２作は、8月11日に一度に見て、映像とはいえ、ワーグナー作品を１日で２本見たのは今回が初めでしたが、見逃したくない映像です。
以下に、４作の映像収録データを記しておきます。
第１作「ラインの黄金」MET上演2010年10月9日
指揮＝ジエイムズ・レヴァイン
出演＝ブリン・ターフェル（ヴォータン）、リチャード・クロフト（ローゲ）、エリック・オーウェンズ（アルベリヒ）他
第２作「ワルキューレ」MET上演2011年5月14日
指揮＝ジエイムズ・レヴァイン
出演＝デボラ・ヴォイト（ブリュンヒルデ）、ブリン・ターフェル（ヴォータン）、エヴァーマリア・ヴェストブルック（ジークリンデ）、ヨナス・カウフマン（ジークムント）、ハンス・ペーター・ケーニヒ（フンディング）他
第３作「ジークフリート」MET上演2011年11月5日
指揮＝ファビオ・ルイージ
出演＝ジエ・ハンター・モリス（ジークフリート）、デボラ・ヴォイト（ブリュンヒルデ）、ブリン・ターフェル（さすらい人）、ゲルハルト・ジーゲル（ミーメ）、パトリシア・バードン（エルダ）、ハンス・ペーター・ケーニヒ（ファフナー）、モイツァ・エルドマン（森んも小鳥）
第４作「神々の黄昏」MET上演2012年2月11日
指揮＝ファビオ・ルイージ
出演＝ジエ・ハンター・モリス（ジークフリート）、デボラ・ヴォイト（ブリュンヒルデ）、ハンス・ペーター・ケーニヒ（ハーゲン）、ワルトライト・マイヤー（ワルトラウテ）、イアン・パターソン（グンター）、ウェンディ・ブリン・ハーマー（グートルーネ）、エリック・オーウェンズ（アルベリヒ）
（2012. 8.12）